映画『たそがれ清兵衛』のあらすじとレビュー|男を倒せば自らの命も無くなる理不尽な決闘に武家社会の建前が凝縮した作品

邦画

主人公の井口清兵衛は、任務の終業早々に帰宅する実直な男でした。

ある日、幼馴染である友人の妹の怒り狂った夫の果し合いに、木刀だけであっさりと倒してしまった凄腕が藩に拡がり、次の災難を呼び寄せてしまい物語が続きます。

2002年11月2日に公開された映画『たそがれ清兵衛』は、初の時代劇となった監督の山田洋次は徹底したリアリズムを打ち出し、時代考証を施した作品となりました。

この作品のみどころや感想など、感じたことをご紹介します。

映画『たそがれ清兵衛』の予告編

<たそがれ清兵衛・予告編>

巨匠・山田洋次監督初の時代劇、原作は藤沢周平の短編小説。

地方藩の下級武士である清兵衛は、実直に藩に仕えておりました。

妻を亡くし幼い子供と老いた母を支えるために、借金返済のために、同僚との付き合いも一切断る始末から「たそがれ清兵衛」とも呼ばれる始末。

そんな男が突然剣の腕を見込まれ反逆武士を討ち取る命を受け、従わざるを得なくなってしまいました。

映画『たそがれ清兵衛』の解説

初の時代劇として山田洋次は徹底したリアリズムを打ち出し、時代考証を施しました。

セットの調度品から城内部の構造から衣装そして髪型に対しても従来を否定し再構築しました。

照明ひとつとっても蝋燭の灯りに拘り、夜のシーンは従来にない暗さですが、十分に観客の理解を得られるリアルなものでした。

主演の真田広之の誠実な演技とともに、本作で映画デビューとなった舞踏家の田中眠の演技も評判でした。

2人の決闘シーンは映画史に残る素晴らしさでした。

また幼馴染の妹役の宮沢りえの凛とした美しさが本作を支え、日本アカデミー賞の各賞を独占の勢いでした。

映画『たそがれ清兵衛』のあらすじ

海坂藩にて御蔵役を担っている井口清兵衛は、任務の終業早々に帰宅する実直な男でした。

病気で亡くなった妻の看病から薬代で借金を重ね、残された幼い子供と老いた母の面倒のために、同僚の誘いを断る生活から「たそがれ清兵衛」と揶揄されておりました。

そんなある日、幼馴染である友人の妹が嫁ぎ先の夫から、たびたびの喧嘩に耐えかね、離縁したとのこと。

ところが怒り狂った夫が果し合いを宣言、ものの弾みで清兵衛が相手をするはめになります。

しかし真剣相手に木刀だけであっさりと倒してしまった凄腕が藩に拡がり、これが次の災難を呼び寄せるのでした。

藩主が変わり反対陣営一掃を図るも、藩の中でも一刀流の使い手である余吾善右衛門がこれを受け入れず立てこもりの事件が起きました。

その処理に腕の立つ清兵衛が指名されてしまったのです。

映画『たそがれ清兵衛』のみどころ

前半はサラリーマン化した清兵衛のライフスタイルが観客の共感を呼び公開当時も評判となりました。

また宮沢りえ扮する幼馴染の妹への思慕を隠しつつも抑えきれない切なさが映画の核となり、全体を支え、節度の美徳のテーマが浮かび上がりました。

もちろん最大の見どころは一刀流の使い手・余吾善右衛門との決闘ですが、その前段に繰り広げられる問答が出色のシーンとなりました。

相手と互いの過去を打ち明け、お互いの困窮と理不尽な武家社会への恨みつらみに共感しあう不思議な展開です。

それでもこの男を倒せば、自らの命もなくなってしまうこの理不尽、どうやって決闘に持ち込むのか、に武家社会の建前が凝縮されます。

映画『たそがれ清兵衛』の感想

室内シーンとは言え圧倒的に暗い中で、しかもほんの先ほどまで談笑し共感しあった相手と真剣で戦うシーンは圧巻です。

やらなければ確実に相手にやられる、やらなかったとしても藩から懲罰でやられる。

この憤りの無い怒りが観客の胸に刺さります。

映画『たそがれ清兵衛』の登場人物・キャスト

たそがれ清兵衛の登場人物・キャストをご紹介します。

井口清兵衛:真田広之
井口藤左衛門:丹波哲郎
以登(晩年):岸惠子
飯沼朋江:宮沢りえ
飯沼倫之丞:吹越満
甲田豊太郎:大杉漣
余吾善右衛門:田中泯
久坂長兵衛:小林稔侍

映画『たそがれ清兵衛』のスタッフ

たそがれ清兵衛のスタッフをご紹介します。

監督:山田洋次
脚本:山田洋次、朝間義隆
製作:大谷信義
音楽:冨田勲
主題歌:井上陽水「決められたリズム」
撮影:長沼六男